ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」

第一部 ホテルレストランビジネス 1982年〜1990年

第二章 オリジナルマーケティング戦略

客づくり 企画の成功例

2001/7/16更新

通常営業より430万円の増収

実施レストラン フランス料理 1987年5月 テーマ「旬の食材」 ターゲット「顧客」 目的 入客増

企画のアイデアは偶然でてくる。

私は、釣りが好きでよく岡山に出かける。2月の寒い日、岡山のカウンター割烹で「赤メバルの煮つけを」を注文した。出てきた「赤メバル」は黒かった。板前さんに「これは黒メバルではないか」と質問した。板前さんは「2月に小豆島の岩陰に住む赤メバルは黒いんです。大変美味しいですから」と言った。実際、大変美味しかった。

帰りの新幹線で「産地直送、旬の本」を読みながらひらめいた。岡山に出かけたから美味しい旬の魚を食べられた。そうだ、日本全国から旬の海の幸を大阪に集めてフランス料理にしたらどうか。

さっそく5月に旬の海の幸を調べた。それを持って料理長に相談した。料理長は「とんでもないこと考えるな」と驚いた。一応、料理長は色々あたってくれたが出来ないという回答。

全国の産地直送の魚屋さんは「海にいるものなので月日指定ではお約束できない」 ごもっともな話である。しけが続くと漁に出れないから。

私は諦めなかった。大阪ミナミの台所、黒門市場の魚屋さんに相談した。「それは面白い、ぜひ協力させてください」なんとわざわざ水槽を作り、前もって入った海の幸をそこに活かしておくとの返事。日ごろのご注文金額が大きいので、このような結果となった。

メニューの作成である。海の幸フランス料理だけでは面白くないと思った。何かオシャレな演出が出来ないかと何日も悩み街をさまよった。とあるレコード店で、フランスの作曲家ドビッシーが作った「クラシック交響詩 海」を発見。これだ、コンサートに行くともらえるパンフレットの引用を思いついた。

この企画はメニューを作らずプログラムにしよう。交響詩「海」の第一楽章が前菜とスープ。第二楽章が1皿目の主采、第三楽章が2皿目の主采、デザートはアンコールである。

日本全国からやってくる海の幸は各楽章を演ずる主役の横顔とした。第一楽章を演ずるのは明石のたこ、大分の目板カレイ、北海道の紫うになどなど。勢い余って、表紙のドビッシーを料理長の顔に変えてしまった。

こうして「海の幸フランス料理」の商品が生まれた。コピーも自分で考えた。「生まれた海からようこそ、シンフォニーホールへ」「シェフはカラヤンをこえるか」などなど。

結局「今が旬、味わいの交響詩 海」とした。(本人は大変気に入ってます)このメニューの経費はたったの10万円。(通常は40万円くらい)現場担当者が考える企画は安上がりを実証した。

ワインに関してはご注文前にタートバン(ワインテスト用の銀器)で試飲し、気に入ったらグラス、カラフェ、ボトルで注文いただく「ためし デ ヴァン」(オリジナルコピー)の誕生。

客づくりは、ダイレクトメールのご案内とした。手作りで400通発送した。企画の期間は2週間。

企画開始前から予約がどんどん入ってきて週末は予約で完全満席。メニュー価格は13,000円でコストは45%。

企画の開始前夜、日本各地から海水とともに活きている海の幸が続々到着。ハッポースチロールの中にいる動く紫うにを見たときは感動した。

結果、企画期間中の前年営業2週間の売上より430万円の増収を達成。ダイレクトメールの利用率は20%の新記録も達成。(これは未だにやぶられていない)

この企画のように現場担当者がすべてやると、作業に携わった若いスタッフも勉強になり企画力が身につく。皆様も全て自分で考え実施してみるといい。これからは企画力の勝負です。

 

この原稿は1994年のものです。少々時代錯誤の部分があることをご理解ください

2006年再読