ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」 コラム

ミシュランのガイドブック その4 2001/10/28 

忘れられない生がき

美味しい食事はフランスだけではない。あまり知られていないのがベルギーです。今回はそのベルギーの首都、ブリュッセルのミシュラン1つ星レストランの話。

一緒にフランス美食の旅をしていたのが、日本人シェフ山さん。山さんの趣味はカメラ。山さんは結構わがままで「どうしてもベルギーを撮りたい」といって聞かない。

なんとかスケジュールを調整して、1泊だけでベルギーに行った。結構古い町並みが続きカメラファンにとって絶好の被写体が続く。

シェフが撮影をしている間に、近場のミシュラン1つ星レストラン「シーヌドール」を見つけた。ミシュランでは海の幸が美味しいと書かれている。

とりあえず地図を頼りにレストランを探した。細い路地を歩いていると、両側に海の幸を並べる市場のような所に出た。ベルギーは海の幸が豊富だと気づいた。

その一角に目的のレストランを見つけた。

店のつくりや雰囲気は、地元の人が気軽に食事に来るビストロのようなレストラン。結構お客様がいて賑わっている。

注文を聞きに来たギャルソンが「生がき」を勧める。山さんに「生がき食べますか?」と聞くと「俺、生がき嫌いや」とむかつく返事。

他の料理もたくさん食べたかったので、生がきは半ダース(6個)だけ注文した。他に色々海の幸料理を注文した。

氷の上に乗せられた生がきが6個運ばれてきた。日本のかきとは違い、丸くて平べったいプラット・ブロンと言われるかきだった。

私はレモンを絞り一気に食べた。「うわー!これは美味しい。シェフ食べませんか」「いらん」「こんな美味しいもの食べずに帰ったら一生後悔しますよ」「じゃあ、1つもらおうか」と言ったので皿をシェフに渡した。

生がきを食べたシェフは「ほんまや、めちゃくちゃおいしいやん」と言って大喜び。私は「追加しますからそれ食べてください」と言ってギャルソンを呼んだ。

シェフは本当に美味そうに全部をペロっと食べた。ギャルソンに「この生がき本当に美味しいので1ダース追加してください」と言った。

するとギャルソンは「今日は売り切れました」と言った。「ガーン!」何というひどい言葉だ。史上最大のショック。

その後の私はレストランを出るまでひと言も喋らなくなっていた。レストランをでてから夜行電車でパリに帰った。

その後も色々生がきを食べたが、ベルギーで食べた生がきをこえるものはなかった。私は今でもこのシェフ山さんを恨んでいる。

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