ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」    

たべもんや三度笠 海外編 フランス パリ

 ランチ  3つ星「ルキャ・カルトン」 2002/12/4

これまで私の人生で3つ星レストランで食事した経験は1度しかない。

それも、27年も前にリヨンにある「ポールボキューズ」での話。

しかし、その「驚きの時間」は今でも鮮明に覚えている。

3つ星レストランで食事をするということは、単に美味しいものを食べるだけではない。

各国の王族や政財界人や俳優や成金の人たちと同じ時を過ごすのである。

彼らの文化を理解してフランス語を読めて喋らないと話にならない。

並みの日本人なら泣いちゃうぞ。

 

12月4日はその興奮から朝早く目が覚めた。

予約時間の12時に合わせて早めの朝食をとった。

パリの市場などを回って適度な運動をした。

さあ、いよいよランチに出かける。

やはり3つ星なら最低でもタクシーで横付けだろう。

「Bさん、場所はどこ?」「歩いて行けますが」「じゃ、歩こう」

ホテルから徒歩10分でマドレーヌ寺院の一角に到着した。(ジャスト12時)

ルキャ・カルトンというレストランのシェフはアラン・サンドランスさんです。

ホテルの料飲の方ならほとんど知っているのではないだろうか?

グルメなパリジャンの支持を受けて20年以上も3つ星を維持している老舗。

ガイドブックによると1ヶ月前には予約をいれるようにと書かれている。

このレストランの玄関を入るというのは、相撲の土俵に上がるような興奮を感じる。

私とBさんは「よし、行こう」と言って中へ入った。

当然のように玄関には初老の紳士が我々観光客を迎えた。

雰囲気は歴史を感じる落ち着きがある。自然光が差し込みこの明るさに救われる。

本日、初めての客なのにレストランには20名もサービススタッフがいる。(この日の客は20名位)

賢そうなメートルドテルが「食前酒はどうする」とやってきた。

とても食前酒は飲めないので「ワインにします」と言った。

ソムリエが重そうなワインリストをBさんに手渡した。

これから自分で選ばなくてはならない。当然、フランス語でしか書いていない。

Bさんが「どうしますか?」と言ったので「何でもいいです」と無責任を決め込む。

さすがBさん、じっと眺めて「これ」といとも簡単に白ワインを注文した。(4903円)

しばらくしたらメニューを手渡された。

前菜とメインとデザートを選べるランチメニュー(9804円)にする。

フランス料理ビジネスを卒業してから15年も経つとメニュー内容が完全に理解できない。

これは「鮭だな、おおこれは子羊じゃないかな」程度の理解で注文した。

12時半を回った頃に客が入り始めレストランの賑わいが出てきた。

そこに30代のご夫婦に見える日本人カップルが入ってきた。

「ねBさん、日本人が入ってきたわ。あの二人泣いちゃうんじゃないかな?」

特に話題のない我々は、この日本人の一挙一動を話題にすることにした。

これはアミューズ。手前に焼いたチキンが置かれ、中央のくぼみにスープが入っている。

横に橋のように置かれている野菜の意味が不明。

手に持ってかじったり、折り曲げたり、スープに漬けたりしたが食べるものとは思えなかった。

でもこのプレゼンテーションはさすが3つ星と感心した。

私の視界には常に10名以上のギャルソンがいる。

前菜 サーモンはレアに焼かれている半生状態 野菜をサフランで味付けしている。

そこに生のイクラが散りばめている。上に乗っているのはパイで作った網ですね。

こんなに美しい一皿を見た記憶がない。お見事です!

一口食べると急に「ウギャ!」が蘇ってしまった。「あ、食えない」

飛行機で食べた「ラザーニャ」とシャンパンを思い出しむかつく。

なんて不幸な出来事なのだろう。一口食べてナイフトフォークを揃えた。

メインの子羊のロースト 色鮮やかなソースが食欲をそそる

が、この美味しそうな料理も一口で終わった。

この画像の悪さが私の動揺振りを証明している。

他の日本人に「泣いちゃうよ」と言いながら私が「泣いちゃった」

このデザートもチョコレートのアイスクリームだけ食べて終わった。

ところで先ほどの日本人夫婦は見事に食事を楽しんでいる。

我々のように半分職業としている人たちにはとても見えない。

フランスの3つ星レストランで食事を楽しむご夫婦がいたんだ。すごく立派に見えた。

我々のテーブルの近くで食事するフランス人カップルは顧客だろう。

ジャケットも着用していないが、シャンパンと白ワインと赤ワインを1本づつ二人で飲んでいる。

メートルも入れ替わり世間話を親しくしている。(この二人は5万円以上払うだろう)

とても会社の金で食事しているようにも見えない。

奥の席には映画で見たことがある俳優が来ている。皆で楽しそうに食事している。

他の客も上品でそれぞれがレストランでの楽しみを充分知っている。

このレストランはこのような顧客に支えられて20年以上も3つ星を維持しているのだ。

サービスもこれだけ優秀なスタッフを揃えていれば文句のつけようがない。

その後、ミネラルウオーター(774円)とコーヒー(903円)をゆっくり楽しんだ。

ここの支払い合計は、27090円。(二人で)

注文した合計が19956円。税金が4902円(19.6%)サービス料が2693円(13.5%)

おそらくディナー利用だと倍くらいの予算でいけるでしょう。

 

このレストランを利用するのは支払う金額の負担だけではない。

相当なレストラン慣れとメニューを理解する程度の勉強は必要。

若きホテルマンよ、一生に一度は3つ星レストランで愛する人と食事してみたら。

 

え、明日も3つ星レストランで食事? この夜、私とBさんはディナーも取らずに寝た。

そして私の体調がウソのようによくなり、奇跡のバク食いが始まるのであった。

 

たべもんや三度笠へ