ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」

第一部 ホテルレストランビジネス 1982年〜1990年

第二章 オリジナルマーケティング戦略

客づくり 苦情処理

2001/7/10更新

必殺ワンツー作戦

私の担当していたレストランは客単価が1万円を超える。お客様の苦情もレベルの高いものである。

食事中の皿を下げていいのか迷うことも多い。しばらくちゅうちょしていると「お前の所は、皿も下げへんのか」と叱られる。逆に間髪いれずに下げると「はよ帰れというてんのか」となる。

ウエイターのちょっとした受け答えのミスでもすぐに「責任者呼んで来い」である。大阪ミナミのお客様は、誰に言えばちゃんとした対応が受けれるかを知っている。

よく苦情客は顧客になると言われるが、どうすれば顧客になる確率が高くなるかを考えた。それはどのような苦情でもレストラン内で解決することである。

私は苦情が発生するとすぐ事務所に逃げる。アシスタントマネージャーを第1責任者として対応させる。アシスタントで収まらないような大きな苦情は事務所に電話が入る。私が逃げてから事務所に電話が入るまでの時間が短いほど大きな苦情である。

呼ばれたときにホテルの責任者として対応する。「何か失礼がございましたか」「責任者呼んで来いゆうとんじゃ」「私が責任者でございます」「え、おまえしかおらんのか」「はい、只今の時間は私が責任者でございます」「しゃあないな」とぶつぶつ始まるのである。

これを苦情発生ワンツー作戦と名づけマニュアル化した。それこそ星の数ほど発生する苦情もこの作戦でほとんどレストラン内で収まった。

このワンツー作戦を実施していないレストランは多くの苦情が表にでてしまう。最初に責任者が対応するから収まらないときは会社の偉い人を呼んで対応させている。逆に、わたしのレストランは苦情が表に出ないので「苦情の少ないサービスのしっかりしたレストラン」という評価を受けていた。

お客様の立場からすると「ホテルの偉い人と知り合いになれた」になる。その後も「部屋を取ってくれ」など何かと無理なお願いをしてくる。どのようなリクエストにも誠意を持って対応するとお互いの間に信頼関係が生まれる。

苦情発生後には「わしはこのレストランの顔や」と言いながらリピーターになってもらえる。こうして多くの苦情客が顧客になっていった。

苦情処理のサービステクニックとしては、レストランで唯一、お客様の見方になることである。まあ、苦情のほとんどがお客様が正しいのですが。

この原稿は1994年のものです。少々時代錯誤の部分があることをご理解ください

2006年再読