ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」

第一部 ホテルレストランビジネス 1982年〜1990年

第二章 オリジナルマーケティング戦略

店づくり(教育訓練計画)

2001/6/29更新

働く目標設定

この業界は人の定着率が低いと言われている。何故か。私は教育者が不在だからと思う。

新入社員が「やめたい」と言ってくる。話をするとだいたい次の2点がでてくる。「この会社は自分に合わない」「他にしたいことがある」

私はこのように話す。「あなたに合う会社は世界中探しても見つからない。自分が会社に合わさなくてはいけない」「他にしたいことがあるのではなく、現実がいやだから逃避したいだけなのだ」

今の若い人は言われたことは出来るが、言われないと出来ないのである。

私は新人が入ると教育担当者を指名してマンツーマンで教育させる。目的は自分の実力のなさを知ってもらう為である。(両方の)私が丁稚の頃はそれぞれが目標を持っていた。店長になりたいや料理長になりたいなど。今の人たちは目標を与えてあげることが大切である。

自分は何でも知っているし何でも出来ると思っている。それを、いかに何も知らずに何も出来ないかを教える。知識に関する質問を常に出しつづける。

「白ワインはなぜ冷やすのか」「ババロアとムースの違いはなんだ」「ウイスキーとブランデーの違いを一言で言えるか」「フォンドボーの作り方は」このような質問は簡単なようでなかなか明解に答えられない。

明日までに調べて来いといい、明日又同じ質問をする。これを繰り返す。つまらぬ事を考えるひまを与えない。

知識に限らない。グラスを磨くのも時間を計ってやらせてみる。掃除機をかけるのも先輩と競争させる。テーブルのセットも早く綺麗に出来るか。出来なければ何度でもやり直させる。

若い人への目標設定で1番効果があるのは「人」である。「この先輩を目標に頑張ります」と言われれば成功である。逆に先輩が後輩のことを「全然ダメです、どうしようもありません」と言った場合。これは先輩である教育者が悪いのである。教育者不在は優秀な人材を失うことになる。

このマンツーマントレーニングは先輩と後輩の双方にプラス効果をもたらす。無事1年を経過したならレベルアップして同じ事を繰り返せばいいのである。

私はこの方法で3年間1人の落伍者も出さずに育てた。そして他のホテルから数名引き抜きがあった。勿論万歳三唱して送り出す。

 

この原稿は1994年のものです。少々時代錯誤の部分があることをご理解ください。

2006年再読