ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」

第六部 関東ブライダルビジネス 1999年〜2002年

2002/3/19  更新 

持込の罪と罰 メイク

私がまだ人を疑うことを知らなかった頃、新婦から「友達にメイクがいるので、その人に頼みます」と言われた。

何の疑いも持たずに「いいですよ」と答えてしまった。これによりメイクの持込となった。

この新婦はインターネットの掲示板で色々投稿を繰り返していた。担当プロデューサーとのやりとりなども公開していた。

別に気にすることはないのだが、インターネットに免疫のないプロデューサーはかなり気にしていた。お二人の為に、一生懸命打合せをしようとするが、インターネットに書かれたくないという気持ちが逆方向に向いてしまう。

まあ、友人というメイクは明らかにドレスショップと手を組んだ派遣メイクでブライダルゲリラ業者である。

この新婦は自分のこだわりが多く、かなり細かい指示を我々に出していた。プロデューサーのアドバイスにも耳を貸さない。

挙式が終わり披露パーティの時間になった。

ご招待客をパーティ会場に時間通りにご案内する。後は新郎新婦がメイクルームから出てくるのを待つだけ。

10分待っても来ない。和やかな雰囲気の会場はやや冷ややかな雰囲気に変わる。

20分待っても来ない。明らかに段取りの悪い会場だと不満げな雰囲気に変わる。

30分待ってやっと来た。会場の雰囲気は完全に冷え切っていた。

お二人が入場した後にメイクに聞いてみた。「何で30分もかかったの?」「新婦があれ直せ、これ直せと納得しなかったから」

そうなんですよね、あなたは新婦の言うことだけ聞いていたらいいんですよね。招待したお客様がどんなに不満に思っても関係ないのだから。

30分も遅れて料理が出された。その時に新婦側の主賓テーブルから一人の中年女性がパントリーに来て大声で怒鳴り始めた。

「どうゆうつもりなの、さんざん待たせた挙句、私たちVIPのテーブルよりも他のテーブルから料理を出して!!」

まったく何も言えなかった。自分からサービスされなかったことで怒鳴り込んでくる人も珍しいが、この怒りの原因は明らかにメイクの時間である。

カクテルドレスへのお色直しも時間がかかった。通常15分で戻って来るのだが30分も戻ってこない。進行が大幅に狂ったのは言うまでもない。

たった一人のメイクを持ち込んだことでこのような披露パーティになってしまう。

お開きのとき新婦にたいして怒鳴り込んだ中年の女性が苦言を言った。それを聞いた新婦は大泣きしてしまった。

この結婚式と披露パーティの結果はインターネットで公開されることはなかった。

これは真実の出来事である。メイクを持ち込むケースでは似たような話が沢山ある。

ブライダルゲリラ業者の手口を紹介する。主に結婚専門誌などで広告を出すドレスショップが、ドレス持込を決めるときにメイクの派遣などをセットにして大幅に安くする。

この安さはかなりのインパクトがある。「私たちが決めた会場は持ち込みができないんです」と言うと丁寧にどうすれば持ち込めるかの悪知恵を授ける。

土曜日日曜日に多くの結婚式が行われる。ちゃんとした組織に所属するメイクは皆忙しい。どことも契約ができない会社に、一流のメイクなどいるはずがない。

我々はチームで仕事をしている。チームワークを大切にして、チームとしてのクオリティを上げるように努力している。そのチームにその時だけ他人が入ってくる。

人の持ち込みが及ぼす影響は、綺麗に拭き上げた畳の部屋に土足で上がられるようなものである。招待客にとって不幸以外の何物でもない。

ホテルの皆様もこのように持ち込んだ新婦が、当日大泣きしないようにメイクの持ち込みは断固拒否しなければならない。

 

この原稿は2002年作成 2006年再読

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