ホテルマンの駆込み寺「まんぷく寺」  

ブライダルコンサルタントケーススタディ

藤戸グランドホテル編

 

 

ケーススタディ

西日本 藤戸県 藤戸市

 

ケース

2008年1月22日、ブライダルのコンサルティングサービスを提供している、東京ブライダルサポートに1通のメールが入った。藤戸県藤戸市にある、藤戸グランドホテル総支配人小倉隆司からである。

 

・・・・・メール本文・・・・・

 

東京ブライダルサポート御中

 

 初めてご連絡させていただきます。

私は藤戸グランドホテルで総支配人をしている、小倉隆司と申します。本日は、私共のホテルの婚礼営業について、ご相談しいたいことがあり、ご連絡をさせていただきました。

 

弊社藤戸グランドホテルは、今年、開業20周年を迎えます。1990年に開業してから、おおむね年間200組の婚礼を受注して参りました。開業後も多少の波はあったものの、毎年200組前後を維持しておりました。

それが、今からちょうど5年前の2004年に、関東にある大手プロデュース会社が、藤戸市内にあった大型レストランの跡地に婚礼施設をつくり、それによってこの年を境として年間200組の獲得ができなくなりました。

その後も、互助会系の会社やドレスショップが、次々と立派なゲストハウスをオープンさせました。それらの影響もあると思いますが、当ホテルの婚礼獲得は、急激に右肩下がりになってしまったのです。

さらに追い討ちをかけるように、東京の上場会社が運営するハウスウエディングが昨年秋にオープンし、ついに当ホテルには結婚を考えるカップルがまったく来なくなりました。

近隣のホテルでは、婚礼業務をやめてしまったホテルも数社ございます。

このような状況の中で、社内でミーティングを重ねてみてもいい案は出ません。まったくのお手上げ状態です。

 

そのような折に、昨年東京で行われた「ブライダルセミナー」で、貴社のご講演を拝聴し、うなずけるところが多くありましたので、何かいいアドバイスをいただけるのではないかと思い、メールをさせていただいた次第です。

私たちは、ハウスウエディングに負けないホテルウエディングを行っていると自負しております。

どうか、私どものホテル婚礼がV字回復するために、お力を貸していただけないでしょうか。

 

・・・・・メール本文終わり・・・・・

 

東京ブライダルサポートは、すぐに現状調査のためのメールを返信した。

 

 

・・・・・メール本文・・・・・・

 

藤戸グランドホテル 総支配人 小倉隆司様

 

メールをいただきありがとうございます。

早速ですが、いただいたメールの内容では、ホテルの現状が把握できませんので、恐れ入りますが以下のご質問にお答えいただけますか。

ご返信をいただいた後に社内で検討しまして、改めてご連絡させていただきます。

 

まず、弊社ではブライダルビジネスを4つのフェーズに分けて、マーケティング戦略を実施する方法を採用しております。

 

●第1フェーズ 広告戦略:集客

●第2フェーズ 新規営業

●第3フェーズ 打合せ:単価アップ営業

●第4フェーズ 婚礼施行

 

ブライダルビジネス成功の秘訣は、第1フェーズにおける集客力と第2フェーズの営業力です。

 

いかに玄関に見込み客を呼び込むか。そして、いかに決めるか。

 

この2段階の効果さえ上がれば、婚礼部門は必ずよみがえります。

 

まずは、綿密なる現状調査の為に、以下の項目について教えてください。あくまでもお分かりになる範囲内で結構でございますので、ご理解ご協力のほどお願い申し上げます。

 

【第1フェーズ  広告戦略と集客】

 

1. 過去の、自社の広告を掲載したゼクシィの現物は保管されていますか。

2.  ゼクシィに広告を掲載した月の来館数と成約者数の記録はありますか。

3.  ゼクシィへの広告掲載が新規成約に至ったという費用効果の分析資料はありますか。

4.  ゼクシィ以外の紙媒体への広告出稿をしたことがありますか。

5.  4.で出稿した場合においても掲載月の来館者数と成約者数の記録と、対費用効果の分析

資料はありますか。

6.   来館者の認知経路がWEBサイトであることがわかる資料はありますか。

7.   同じように来館者数と成約者数との記録と対費用効果の分析資料はありますか。

8.   各競合施設の見積書とパンフレット、視察レポートはありますか。

9.   その他の競合施設の情報はありますか。

10.        ブライダルフェアの来館者数と成約者数の記録と対費用効果の分析資料はありますか。

11.        資料請求者へ送付する資料はありますか。

12.        資料送付からつながった来館者と決定者についての資料はありますか。

13.        来館者数と成約者数の記録は、日ごと、週ごと、月ごと、など、どこまで詳しく残っていますか。

14.        エージェントからの送客実績は記録されていますか。

15.        エージェントからホテルに対してのリクエストや注意事項はありますか。

16.        宴会場を使用していないときに披露宴のセットをしていますか。

17.        宴会場を使用していないときに結婚式場のセットをしていますか。

18.        婚礼における販売促進費の年間総額はいくらでしょうか。

19.        初期見積と最終見積の差額が記録された資料はありますか。

20.        来館者アンケートの分析は毎月行なっておりますか。

 

【第2フェーズ  新規営業】

 

1.   電話予約の内容を記入するフォームはありますか。

2.   来館者アンケートの現物を見せていただけますか。

3.   お客様がアンケート記入する際に使用しているボールペンを見せていただけますか。

4.   ゲストに出す飲み物の種類と出し方を教えていただけますか。

5.   接客サロンのテーブルプランを見せてください。

6.   婚礼の時間枠(台帳)を見せていただけますか。

7.   婚礼の時間枠は年中同じでしょうか、曜日、季節などにより変えていますか。

8.   料金表を見せていただけますか。

9.   見積書を見せていただけますか。

10.        各種プランの内容と、それぞれの違いを教えていただけますか。

11.        衣裳のパンフレットと売上実績を教えていただけますか。

12.        写真のアルバムと売上実績を教えていただけますか。

13.        装花のアルバムと売上実績を教えていただけますか。

14.        演出のアルバムと売り上げ実績を教えていただけますか。

15.        引出物の資料と売り上げ実績を教えていただけますか。

16.        料理のアルバムと売上実績を教えていただけますか。

17.        飲料のアルバムと売上実績を教えていただけますか。

18.        テナント協力会社について強み弱みを教えていただけますか。

 

以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

・・・・・メール本文終わり・・・・・・・・

 

Pホテルズから派遣されている総支配人の小倉は、このメールを見て驚いた。なぜ、こんなにも詳細にわたって質問してくるのか。理解できなかった。小倉には、自ら陣頭指揮をとって、全ての項目事項を調べる気はさらさらなかった。早速、婚礼課長の山本を呼び出して、早急にメールに関する資料を収集し、まとめるよう指示した。

婚礼課長の山本も、メールの項目や内容に全く興味がなく、婚礼MGR2名を呼び出して、現状の報告書を作成するように命じた。

婚礼MGRの定が中心となり、レポートを作成したが、ほとんどの項目において「作成不可」と報告した。「なんかややこしいことになりそうや」と感じたのは、定だけではなかった。婚礼チームの女性スタッフは皆、内心「このまま楽に過ごしたい」と思っていた。

 

1週間後、藤戸グランドホテルの総支配人小倉氏から、東京ブライダルサポートにメールが届いた。

 

質問の内容について、おおまかな資料だが婚礼部門から上がってきたとのこと。

資料が膨大なので、メールで送ることは困難である。中には持ち出し禁止扱いの書類も含まれているので、一度、現地にお越しいただきたいと、そのメールには書かれていた。

 

そこで、東京ブライダルサポートがこのプロジェクト担当に指名したのが、チーフコンサルタントの阿部信久(51歳)である。阿部信久は、新卒でOホテルズに入社し、新規開業を料飲部の立場から成功させた経験をもつ、業界歴30年のベテランである。特に海外ホテル勤務経験が7年と長く、アイデアを具現化する考え方をアメリカで学んでいた。それだけに、阿部の発想について理解できないホテルも多いのだが、一度理解されると驚くほどの好実績を残している。

 

<阿部が独自で調べたマーケット概要>

 

西日本にある藤戸市は、人口35万人の瀬戸内海に面する都市である。

藤戸県の年間の婚姻届は、約5000組。藤戸市と周辺都市の披露宴実施件数は、約2500組。

そのうち、藤戸市では、年間1350組が披露宴を実施する。市周辺で、ホテル、専門結婚式場、レストラン、ゲストハウスという形態の競合施設が、約10会場ある。(年間施行組数50件以上)

 

そして、20082月、阿部は藤戸市に降り立った。

 

■2008年2月12日 午後1時 藤戸グランドホテル VIP ルーム

■出席者:総支配人 小倉隆司氏

     オーナー会社 株式会社アセットオーナーズ 事業部長 山田重信氏

     東京ブライダルサポート 阿部信久

 

藤戸グランドホテルのオーナーは、2005年度に藤沢建設からファンドに代わった。

現在のオーナー会社が、株式会社アセットオーナーズである。

総支配人の小倉氏は、前オーナーである藤沢建設が契約していた、ホテル運営会社Pホテルズから派遣されている。

 

阿部「まず、2007年度の予約獲得の結果を教えていただけますか?」

小倉「2007年1月から12月までの間に、72組の獲得。予算が200組です。」

 

阿部「え、200組の予算で72組ですか。」

小倉「そうです、対予算比36%と惨敗です。」

 

阿部「この落ち込みはかなり深刻ですね。」

小倉「おそらく、ここ5年の間に続々と進出してきた、ゲストハウス系施設の影響だと思われます。」

 

阿部「各競合施設の調査は実施されているのでしょうか?」

小倉「はい、スタッフによる資料請求です。」

 

阿部「えっ?それだけですか。競合施設への見学などは行っていないのでしょうか?」

小倉「はい、ゲストハウス系と互助会系の会場は中を見せてくれないそうです。」

阿部「早急に競合店調査を実施する必要がありますね。」

 

阿部「それでは、集客についてお尋ねします。ゼクシィへの広告出稿以外に、何かしていますか?」

小倉「時々、無料のタウン情報誌にお付き合いで広告を出しています。」

 

阿部「過去のゼクシィの広告は取っていますか?」

小倉「いえ、2〜3か月で捨てています。」

 

阿部「ゼクシィ広告は、誰の担当ですか?」

小倉「営業企画のベテランスタッフに任せています。」

 

阿部「月にどれくらいのページを出していますか?」

小倉「毎月2ページです。以前は、1ページから6ページの間で調整していました。」

 

阿部「ゼクシィ広告の費用対効果は記録していますか?」

小倉「ゼクシィ広告の対比比較はしていませんが、別々の表ならあります。」

 

阿部「もしゼクシィ広告を出さなければ、毎月どれくらいカップルがきますか?」

小倉「ほとんど来ないのではないでしょうか。ゼクシィ広告をやめるということは考えていません。」

 

阿部「ホテルのホームページはありますね。婚礼のページが工事中になっていますが、これは何か原因があるのですか?」

小倉「ホテルに関するページは作り直したのですが、婚礼に関しては、掲載するネタがなくて閉めました。」

阿部「今後どのようにされますか?」

小倉「ホテルを辞めたスタッフが、ホームページの制作会社を立ち上げましたので、そこに頼もうと思っています。」

 

あとは、細々した確認作業が少しの間続いて会議は終了した。

意外にもオーナー会社のアセットオーナーズ事業部長の山田重信氏がほとんどしゃべらなかったのが、阿部にとっては印象的であった。

 

次に阿部は、婚礼課長の山本に話を聞きたいとお願いした。

 

阿部「婚礼課長の山本さん、過去の婚礼数字を教えていただけますか?」

山本「だいたいの数字はこの表に書かれています。」       (表1 参考資料)

 

阿部「ゼクシィに広告を出稿することについて、どうお考えですか?」

山本「ゼクシィに広告を出さなければ、これ以上にひどい結果になっていたと思います。」

阿部「もしその予算がほかの作戦に使えるとしたら・・・何をしますか?」

山本「考えたこともありません。」

阿部「今月のゼクシィに、30万円割引と書いていますね。その理由は何ですか?」

山本「その内容は、私が指示したのではありません」

阿部「え?ゼクシィ広告に婚礼課長が係わっていないのですか?」

山本「はい。他部署に任せきりです。」

 

阿部は、これ以上のミーティングは必要なしと判断した。

必要な書類を借りて、目を通した。

 

この日の阿部は、藤戸グランドホテルと競合する、駅前のフランキーホテル藤戸に宿泊をとった。理由は、競合ホテルの視察を兼ねて、じっくりとレポートをまとめるためである。

 

その日、阿部は本社にこのような内容をレポートした。

 

@    藤戸グランドホテルの婚礼件数は「激減」と言う表現が正しい。

・2000年には、450組の集客で210組の決定。

・2003年には、430組の集客で180組の決定。

・2005年度は、220組の集客で85組の決定。

・2007年度は、185組の集客で72組の決定。

A    早急にマーケット内の競合施設の調査が必要。競合施設の調査を実施しない限りは、ホテルの問題点は見えてこない。

B    ゼクシィ広告のあり方に問題がある。広告の企画・立案・撮影の部署が婚礼部署ではない営業企画だけで実施。現場は掲載内容を把握していない。

C    長年の間、ゼクシィ広告に関する業務は、ほぼ一人のみが担当している。毎回同じような広告を掲載するため、読者からは飽きられている。

D    新しく開業した、大手上場会社の運営するハウスウエディング会場「ゴールドロジャー迎賓館」への対抗策が一切行われていない。

E    総支配人の小倉氏は、婚礼ビジネスに興味がなく、出向元であるホテル運営会社の評価のみを気にしている。

 

2008年2月13日 夕刻 阿部は本社に戻った。その二日後、東京ブライダルサポートは、

以下の内容を、藤戸グランドホテルに提案した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

宛先: 藤戸グランドホテル 総支配人 小倉隆司様

CC アセットオーナーズ 事業部長 山田重信様

      Pホテルズ 運営本部長 渡辺正義様

 

藤戸グランドホテル婚礼改善策提案について

 

@   藤戸グランドホテルの婚礼業績が右肩下がりになったころ、次々とブライダルビジネスのノウハウを持った企業が婚礼施設を開業している。早急に現在の競合施設調査を実施しなければ対策の提案もできない。

→ プロの調査員が、1泊2日のスケジュールで調査する必要がある。

A   ゼクシィ広告の見直し(以下の2案を提出)

  ゼクシィ広告の傾向と対策

 日本全国各地域のゼクシィの中から、集客にもっとも効果的である広告を集め、婚礼スタッフ

と一緒に、藤戸グランドホテルにとって有効となる広告についてディスカッションし会社へ

の提案としてまとめる。これは講習として4時間の内容。日帰り講習会。

  ゼクシィ広告の製作

弊社が広告デザインと写真撮影を行う。デザイン案とデコレーションに関しては、前もって提案書と見積書を提出しておく。すべての作業は、弊社のスタッフ4名を東京から呼び寄せて、行う。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この提案に関し、藤戸グランドホテルのオーナー会社アセットオーナーズと、運営会社Pホテルズは、経費負担の問題について、もめにもめ、なかなかGOサインが出なかった。

 

2008年3月12日 次のような返答があった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

@   競合店調査は必要と判断しましたので実施してください。

A   ゼクシィ広告に関しては、すべて施策を貴社で行なってください。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

@2008年3月17日・18日 競合施設調査の実施

東京ブライダルサポート調査員 山根和子 他 1名 

藤戸グランドホテルと競合する施設10会場の徹底調査を実施

 

2008年3月24日 全50ページに及ぶ調査報告書を提出

資料1 藤戸市近隣競合施設比較表参照 (ダイジェスト版)

資料2 藤戸グランドホテル ゼクシィ広告比較表

 

A2008年3月22日 広告用写真撮影の実施

東京ブライダルサポート撮影班によるセッティングと写真撮影

チーフプランナー:山本多賀子・アシスタント:国山和代・亀山浩二・担当:阿部信久

       

   
 

 


■競合施設調査報告書は提出された後のアクションは何もなく、スタッフへの共有化もされず、そのまま総支配人室に埋もれてしまった。

 

■ゼクシィ広告は、2008年5月号に2ページ広告として掲載された。

2008年ゼクシィ5月号 4月集客合計:43組(2007年度平均集客数:月15組)

 

2008年5月12日、東京ブライダルサポートに、藤戸グランドホテル総支配人からゼクシィ広告の結果報告が届いた。

 

「ゼクシィ広告にて43組の集客があったが、ホテルの客層と違い、予算金額の低い客層しか来なかったため、結局6組の決定に終わった。」との報告内容であった。

 

チーフコンサルタント 阿部信久のコメント

「この藤戸グランドホテルの婚礼再生は極めて困難と判断している。理由は数多くあるが、まとめて箇条書きにすると以下のようになる。

@    運営責任者の総支配人が婚礼ビジネスを知らない。また興味がない。

A    総支配人は、派遣元のPホテルズの上司の評価を常に気にしているため、婚礼再生における目的がずれている。

B    ホテル側に経費の予算取りがされておらず、プラスの経費が一切使えない。

C    オーナー会社は、できる限り支出を出さない方針である。

D    婚礼現場のスタッフたちでは、自分たちの権利ばかり主張して、義務(予算達成)を果たさない。

要するに、既存メンバーで、余分な経費を使わず、ホテルの婚礼をV字回復してほしいと言っている。」

 

そこで、東京ブライダルサポートは、上記の悪条件を重々承知の上で、次の提案を出してオーナー会社から承認を受けた。

その提案とは、Pホテルズの総支配人にも、藤戸グランドホテルの婚礼部門のスタッフの手を借りなくても実現しそうな提案内容であった。

 

(ケーススタディ その1 終わり)

物語の背景

 

藤戸市

西日本にある藤戸県の県庁所在地、藤戸市は、人口35万人の地方都市である。主な産業は、観光と農業と漁業である。県内で創業した、一部上場会社の山根製薬が本社を構える。山根製薬は、年商1000億円以上の大企業で、県内に多くの従業員を抱え、工場や営業所などがあり、市の財政を支えている。藤戸市の文化は、どちらかというと、他都市からの文化をあまり取り入れない閉鎖的な都市と言われている。そのせいかどうかはわからないが、ホテルや結婚式場も地元資本の会社が経営と運営を行っていた。

 

藤戸グランドホテル ホテルの生い立ち

藤戸市全体が、バブル景気に踊始めた1989年頃、市内の大手建設会社、藤沢建設が企業需要を見込んで、建てた豪華シティホテルである。立地は、JRの駅から車で20分の小高い丘の上に造られた。その後、バブル経済が終焉し当初の事業計画通り売上が上がらず、豪華な施設にかけた金額が大きく、開業以来20年で1度も黒字を出していない。

 

藤戸市での藤戸グランドホテルの位置づけ

20年前の開業時には、藤戸市初の豪華シティホテルとして、一般宴会、婚礼、宿泊と多くの市民が利用したホテルであった。バブル経済の崩壊以降は、当初の売上予算の達成など、夢物語となったような時期があった。当時の総支配人が、安売り戦略を強力に推し進めた影響で、「安売りホテル」というイメージを市民に植え付けてしまった。その後、このイメージ払拭の努力が重ねられたが、10年前にJR駅前に有名ホテルチェーンのフランキーホテル藤戸(240室)の開業などもあり、いまだ古いホテルというイメージがなかなか払拭できていない。ホテル側の立場では、新しいホテルや結婚式場が数多くできたが、ホテル内にて、自分たちでできることに精いっぱいで、ホテルの評判まで考える余裕はないのが現状。

 

ホテルの歴史を作った歴代総支配人と幹部スタッフ

開業時に、市内のベテランホテルマンを総支配人として採用。総支配人の人脈にて各セクション長を地元採用した。業績が事業計画通りいかなかった主要因は、バブル経済の崩壊であるが、開業時からのお友達組織にも原因があったと業界では言われている。オーナーの藤沢建設は、開業後3年目、初代総支配人の退職を機に、藤沢建設から出向社員として総支配人を出した。しかし、建築業界で優秀でも、畑違いのサービス業の経営においては結果が出せなかった為、10年前の1998年から、ホテルチェーンPホテルズと技術援助契約を結び、Pホテルズから総支配人の派遣を受けている。Pホテルズから派遣される総支配人は約3年契約となり、期間中に大幅な改革に挑戦するというよりも、無難に任期を全うする雰囲気が強かった。歴代3名の総支配人は、いずれも大きな改革に着手せず、無難な予算を作り無難に任務を終えていた。現在の総支配人小倉隆司もPホテルズからの派遣であり就任2年目。

 

オーナーの変更

開業後17年目2005年の出来事。藤戸グランドホテルのオーナー企業である、藤沢建設も本業の不振に加え、西日本銀行からの強い要望もあり、株式会社アセットオーナーズ(投資マネージメント会社・ファンド)に藤戸グランドホテルのすべてを売却した。アセットオーナーズは、藤戸グランドホテルの売上V字回復の鍵は、婚礼の売上と見ている。ここ数年間の婚礼売上の右肩下がりは、ホテルスタッフのマーケット分析と競合店調査など、当り前のオペレーションを怠ったためと見ている。総支配人を派遣しているPホテルズへも、「婚礼売上の達成なくして、ホテルの再生はあり得ない」と強く迫った。

 

藤戸グランドホテル(施設 概要)

【宿泊】 157部屋 シングル95部屋 ツイン45部屋 ダブル10部屋 スイート7部屋

  年間稼働率 約54

【レストラン】 

日本料理 ふじと 60席 昼食 1,800円〜 夕食 3,000円〜

カジュアルレストラン ダイアナ 140席(テラス席含む)

朝食 1,500円 昼食 1,500円〜 夕食 2,000円〜

【宴会場】

大宴会場 藤戸の間 240坪 正餐300名 / 婚礼: 2分割利用80

スカイバンケット カレン 70坪 婚礼80名まで

【その他】中小宴会場 婚礼では親族控室として利用

結婚式場2か所(神前結婚式場1か所・教会式結婚式場1か所)

 

藤戸市の婚礼マーケット(過去と現在)

藤戸県内での婚姻届は、約5000組(2007年度)。藤戸グランドホテルで過去に挙式をしたカップルの住居を考慮すると、ホテルの婚礼マーケットは、藤戸市及び周辺における婚姻届数は年間約2500組となる。実際に披露宴を挙げた組数は、毎年約1350組前後がここ数年間の実数である。

藤戸市内の婚礼市場に大きな影響を与えたのは、2003年に開業した、レストランウエディング会場「ルフィーノテラス」(本社東京)である。これまで藤戸市になかった新しいウエディング会場として若いカップルに支持された。2バンケット1レストランで年間200組の獲得は、藤戸市婚礼マーケットを激変させた。

直後に、長年、藤戸市で貸衣裳屋を営む「ときめき衣裳店」が、直営の和風1ゲストハウス「きらめき館」を開業。年間60組を施工している。2004年には、洋風一軒家ゲストハウス「コビー館」(年間100組)を開業。その後、ドレス持ち込みの婚礼紹介エージェント「ときめきウエディング」を始めた。もう一つのライバル衣裳屋「寿屋」も、直営のゲストハウス「ナミHOUSE」(年間100組)を開業。

一方、2005年に互助会系の式場が、全面リニューアルで1チャペル2ゲストハウス「シャンク・ブラン」(250組)を開業。2007年東京の上場会社のハウスウエディング会場1チャペル2ハウス「ゴールドロジャー迎賓館」(年間300組)が開業した。この間、次々と開業したハウス系施設がホテル婚礼を奪った形となり、婚礼をやめてしまうホテルも多く出た。

現在、藤戸市内にあるホテルのほとんどが、宿泊特化型になっている。

 

 

  

藤戸グランドホテル 料飲部ブライダル課 組織とメンバー

 

・婚礼予約課長 山本 博(46) 

ホテル開業後5年目にアルバイトとしてホテルに入る。料飲サービスを長く担当してきたが、これまで、婚礼部門の経験は無い。どちらかと言えば宿泊支配人として働きたいが、現職に甘んじている。総支配人の指示に対しては、素直に聞くが結果が出せるまで必死に働くタイプではない。

 

・婚礼マネージャー 国井 佳世子(42歳)

宴会予約一筋に20年間勤める。料飲部のお姉さん的存在でスタッフからの信頼が厚い。ビジネスに関しては興味がなく、波風立てずにやれればよいと考えている。

 

  婚礼マネージャー 定 千鶴子(33歳)

ブライダル希望で、大手薬品会社からの転職。ちょうど、婚礼が右肩下がりになる頃に入社しているため、常に愚痴っぽい表現が前面に出る。ゲストの受けはよく、事実上、婚礼チームを仕切っているやり手。会社や上司に対する不満は常に持っており、他にいいところがあればすぐにでも辞めたいと思っている。しかし、このホテル以外の婚礼経験がないことを気にしており躊躇している。

 

<婚礼営業スタッフ>

 

  菅原 静香(26歳)

新卒入社3年目。料飲サービスに配属されていたが、ブライダルの仕事がしたいと希望し、今年異動してきた。常に前向きで、MGRの定を尊敬している。

 

  金沢 良子(24歳)

地元衣裳屋に新卒で入社したが、親のコネでホテルの婚礼営業に転職してきた。好奇心旺盛でブライダルの仕事への強い憧れを持って入ってきたが、ホテルの古い確執によって交わされる上司の「何をやっても無駄だ」「お金がかかるものは無理」という言葉に、すっかりやる気をなくしている。

 

  営業企画マネージャー 高橋 留美(36歳)

なんと、前オーナー会社藤沢建設の役員の娘。10年前から広報と営業企画を担当している。ホテル幹部は、オーナーが代わっても地方都市の噂を気にしてか、本人が辞めると言うのを待っている。婚礼の営業企画に関しては10年前から何も変わっていない。

損益計算書

 

 

        ブログへ戻る